遅ればせながら、「AI vs 教科書が読めない子どもたち」を読みました。
【2019年ビジネス書大賞 大賞】AI vs. 教科書が読めない子どもたち
- 作者: 新井紀子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/02/02
- メディア: 単行本
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何度か読もうと試みては、仕事に追われたりして読了することができませんでしたが、改めて読んで良かったと思えました。
この本に書かれている内容
この本は大きく2つの構成になっています。
- AIに対する理解を深めるパート
- 日本人の読解力がいかに低いかを示すパート
前段で、世の中にあふれている「AI」に関する誤解を解きながら、本来のAIができること・できないことを丁寧に説明しています。
そのなかに、AIは意味を理解することができない、と説明があります。
例えば、
1.太郎さんは花子さんが好き
2.花子さんは太郎さんが好き
2つの文章が持つ意味は違うのですが、文節・単語に区切ると同じ要素を使っており、それを組み替えているだけで、AIにはその違いを理解することができない、ということです。
AIはプログラムでしかなく数学的に表現ができないことしか実現できないため、iPhoneのSiriのように会話をしているようなAIが出てきたとしても、インプットから論理的な計算に基づいてアウトプットしているだけで、意味を理解して会話しているわけではない、という説明もあります。
そのため、AIに仕事を奪われないようにするためには、人間しかできない「意味を理解する」ことが必ず求められます。
しかし、現代人は意味を理解する(=読解力)のレベルが低い、ということを、この本の「日本人の読解力がいかに低いかを示すパート」で証明しています。
(ちなみに、”日本人の”と限定していますが、他国の分析をしていないのでそう表現していますが、他国の読解力が高いかどうかは不明です。)
細かな数字は忘れてしまいましたが、統計的には国立大学の良いところに行っている人たちくらいしか読解力があると言えない、というレベルでした。(あくまでも統計なのでどこ出身であっても人によって読解力の高い/低いは変わります。)
どのようなテストを用いて読解力の多寡を測っているのかは、ぜひこの本を読んでいただきたいところです。
ここでは「じゃあ読解力って何なの?」という点をもう少し深堀して考えてみたいと思います。
また、この本では読解力の向上のさせる方法に科学的に証明された方法はない、と説明しており、例えば読書量は読解力に比例しないといった実例も出ています。
が、せっかくなので、どうしたら読解力が向上するのかも一緒に考えていこうと思います。
読解力って何?
こういう時には原理原則。まずは辞書にあたってみましょう。
文章を読み、その内容を理解すること。(Weblio辞書から引用)
文字の意味のままでしたが、二つの内容が含まれていることが分かります。
- 読むこと
- 理解すること
おそらく普通に生活していると、「1.読む」と「2.理解する」は同時に行っていると思います。が、難しい本だと読んでいるのに頭に入ってこない、といった経験はお持ちかと思うので、やっぱり「1.読む」と「2.理解する」は別物なのだと思います。
そこで、それを分解して考えると、
- 読む=表示されている文章を認識することができること。
-
理解すること=認識した文章を映像化することができること。
だと思います。
1.読む=表示されている文章を認識することができること。
文章自体を認識できない、なんてことはないとお思いかもしれないですが、例えばアラビア語やタイ語みたいな言語は、日本人では認識することすら難しいと思います。どこで文字の区切りがあるのか、文節がどこで区切られているのかすら分からないと思います。
まずはこれをやれるかどうか、が読解のスタートなのだと思います。
日本においては初期教育がしっかりと行えているので、識字率(字を認識することができる割合)は高い水準(99%)にあり、読解力が低い原因がここにあるとは考えにくいです。
2.理解すること=認識した文章を映像化することができること。
次に該当するのはここで、ここに読解力の低さの原因があると考えています。
私は、人が何かを理解するためには映像に置き換える必要があると考えており、文章についてもそれと同じだと思います。
例えば小説だと、書いてある文章からどんな情景なのかを思い浮かべ、主人公がどんな感情でどんな動きをしているのかを映像にすることで理解を進めていくと思います。
また、日常会話の場合でも、体験したこと(=映像)を言語化(=文章化)して相手に伝えることで、相手は文章を頭の中で再構成し映像を思い浮かべながら理解していると思います。
理解する能力=映像化することができる能力、だと考えています。
抽象的な内容や自分が全く知らない世界の話になるほど映像化の難易度は上がっていくので、これを幅広くできる人が理解力が高い人なのだと思います。
ちなみに、読む/聞く側の話ばかりしてますが、相手が映像化しやすいように話す/文章を書くことが、分かりやすい話し方/文章の書き方の本質だと考えています。
読んで理解すれば読解力は十分か?
読解力は「読んで、理解する」だけでOKか、というと、そうじゃない気がします。
相手の表現していることを理解することができるのに、なぜかコミュニケーションがうまくいかない、という経験を持っている人は多いと思います。
真の読解力に求められる要素は「読んで、理解する」だけでなく、「なぜそれを相手が表現したか」まで慮れるかどうかだと思います。
文章を読み解く時よりも口頭で会話する時の方が意識が向きやすいと思いますが、表現された内容をそのまま理解するだけでは裏側にある文脈やその人の考え方を把握することは困難で、理解する時に思い浮かべる映像が誤ったものになる可能性があります。
そのため、コンサルとしてクライアントと対峙する際には、相対する人の所属部門や経歴等を把握することで、守りたいものや達成したいことを想像しながら、一つ一つの表現を受け取るように心がけています。
それができるようになると、相手の表現している内容を表面的に理解するレベルから相手の意図していることを深く理解できるレベルに変わり、1から5や10を理解するようなことができるようになってきます。
「読解力」を身に着けるためにはどうしたらよいか。
ここまで読解力とは何か(What)を深堀して考えてきました。
まとめると、読解力とは以下の3つの要素で構成されます。
- 読む=表示されている文章を認識することができること。
- 理解すること=認識した文章を映像として理解できること。
- 表現の背景を意識する=なぜその表現を使うかに思いを馳せること。
「1.読む」は日本語であれば日本人の大多数はおおよそできているので特に問題ないでしょう。自分/相手の意図していることを適切に表現する単語を多く知った方がと思いますが。
問題は「2.理解すること」と「3.表現の背景を意識すること」です。
2.映像として理解する能力を上げるためには
文章⇒映像、映像⇒文章ということを繰り返し練習をするしかないと思います。
が、それを言っても仕方ないと思うので、おススメなのは小説を読んだ後に映像化された作品を見ることです。(自分が表現する能力に不足を感じている場合は、映像化された作品を見る⇒小説を読む・人に話す)
抽象的な概念の書籍を読もうと思ってもなかなか能力は向上していかないと思います。(なぜなら概念を映像として理解することは難しいので)
そのため、まずは映像化しやすい小説を読むことをお勧めします。ただし、ただ小説を読むだけでは映像化の訓練にはならないため、まずは小説を読みながらどういった情景なのかをイメージすることです。その答え合わせといってはなんですが、映像化された作品を見れば小説の表現と自分のイメージの乖離に気づくことができます。
この際、読解力不足で小説を読んでいても頭に入ってこない感じがあれば、まずは映像化された作品を見てみてください。その後、小説を読めば頭の中にある映像を頼りに小説を読み進めていくこともできるようになります。
従って、小説を頼りにして文章⇒映像、映像⇒文章を繰り返してみることが初手です。
慣れてきたら抽象的な概念について記述されている書籍に触れてみてください。
3.表現の背景を意識するためには
これを訓練するためには「なぜ?」を繰り返し自身に問い続けるしかありません。
- なぜ相手は〇〇と言ったのか、言っているのか
必ず表現には、その人の考え方(大切にしたいこと等)が反映されます。そのため、相手の言っていることを額面通りに受け取らない(疑う、と同義)よう上の質問を自分に投げかけます。(聞ける状況であれば相手に聞いてしまってもOK)
経験がこの能力を向上させることもあると思いますが、相手の所属部門や経験してきたこと等を把握することによって想像が働きやすくなるので、その人が大切にしているポイントに意識を向けながらコミュニケーションをとると良いです。
そのためには、会社を例にとれば、部門の目的・ミッション等の知識獲得が必須です。
まとめ
「読解力」をテーマに考え始めたので、最初は文章を中心に考えましたが、読解力は文章だけでなく発言も同じように求められるなと感じてきました。
また、コミュニケーションは受け取るだけでなく渡す側にも当然なります。
「読解力」=文章を読む、というテーマでしたが、文章だけじゃないし受け取るだけじゃない、つまりコミュニケーション能力につながるような話だと思います。
思わぬ長文になってしまいましたが、少しでもお役に立てればと思います。
なお、理解することを「映像化できるかどうか」と表現していますが、視覚的・聴覚的・体感覚的な認識方法がある、といった説明をNLPの本で読んだことがあります。(あまりNLPに詳しいわけではないので、あやふやですが。)
そのため、人によっては映像化ではなく、音にできるか、触覚に変換できるか、といった理解の方法があるのかもしれないです。(私が視覚的な理解をしているだけの可能性もあります。)
NLPの基本がわかりやすくまとめられている本がどれか分からないですが、いくつかリンクを貼っておきます。
では。